金色堂の雪

 1日に恵比寿の写真美術館で開催中の土門拳「古寺巡礼」展を観覧した。唐招提寺毘盧遮那仏、千手観音、鳳凰堂の夕景、永保寺の無際橋、本薬師寺薬師如来円成寺大日如来などすばらしい作品が数多くあったのだが、その中にあって特に目にとまったのが中尊寺金色堂の雪景(1961年)である。

 説明書きに、土門が雪の写真を撮りたいと考え、中尊寺からの雪が降った旨の電報を待つこと数年であった(!)というような記載があり、芸術としての写真がいかに生まれ難いかを垣間見たような気がする。

 写真は雪が降った翌朝の中尊寺金色堂(旧鞘堂)屋根とその周囲雪が積もり、午前の柔らかな日が当たっている様子である。どれほど時間をかけてどのように移動したのかもわからないし、この構図をものにしたときどのような心境だったのか想像もつかないが、見事な、いつかこういう風景を撮影してみたい、せめて目の当たりにしたい、そう強く感じる光景である。

 

 この写真を見て一つ即座に思い浮かんだことがある。それは、川瀬巴水最後の作品である。巴水にはいくつか中尊寺金色堂の作品があったように記憶するが、巴水の絶筆になったのは雪の降りしきる中、金色堂に向かって1人の僧が歩いていくという構図の作品である。誰かの解説で、この僧は巴水自身である、と述べられていたように思われる。

 

 巴水による金色堂の雪景は雪の降る日の静けさの伝わってくる、物寂しさの漂う作品である。土門の写真はほぼ同じ位置からの構図で、同じく雪の中、旧鞘堂なのであるが、冬の光の中で明るさのある写真である。

 

 こういう作品に触れ、また実物を見る機会を得、それらを相互に反芻して自分の中に蓄え、そのような経験を積み重ね続けたい、と強く思うし、今までに得た、多くはないけれど感動した思い出を大切にしていきたい。

 

 

なお、こちらで巴水の作品が見られる。

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